2024/01/18

vol.6_ シャツのこと

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TEXT / SUU
PHOTO / MADOKA

ちょうどいいシャツ

いつからか思い出せないが私はシャツが好きだ。
高校生の頃に、何かの雑誌でセルジュゲンズブールがなんともルーズに色っぽくシャツを着ているのを見て以来かもれない。

シャツというアイテムに目覚めた高校生の頃は、アルバイトをして生意気に『COMME des GARCONS』の白いシャツを制服のブレザーの下に着たりした。
東京でファッションスクールに通っていた頃は『agnes b.』のエンジの玉虫色のシャツを気に入っていつも着ていたのを覚えている。『agnes b.』のシャツは他にも白や黒いシャツを持っていたと思う。このブランドはなんとも普通なんだけどプリントや色が他になくちょっと不良っぽい、ジャン=リュック・ゴダールの世界観みたいな感じがしてしばらくハマっていた。

そう、シャツの話です。
少し前に私は『Soliloquy』というブランドを始めた。“ソリロキー”と読む。ブランドの由来などはまた今度書こうと思うが、ここでは私が着たい洋服を少しずつ作っている。もちろんシャツも。

このシャツは普通のボタンダウンシャツなんだけれど、ちょっとルーズに着るバランスにしている。素材は「タイプライタークロス」という少し細番手の綿糸を高密度に織っている生地。着るとハリ感がありつつもサラリとしていて着心地がいい。それをドレスシャツの様に細かいミシン目で縫う。

高密度で織られている綿生地を細かい目で縫ったシャツは、洗うとステッチに「パッカリング」と呼ばれるシワがよる。細かい目で縫った縫い目は、細かくて品の良い「パッカリング」が出てくる。生地にも細かいシワが出来て、「品の良いパッカリング」と「シワ」がいい感じの力の抜けた顔を作ってくれる。

私はシャツを買う時、必ずケンボロの裏の処理の仕方を見てしまう。正確に言うと、ケンボロの縫止り(肘側の端の三角形とかの裏です)の処理。ここが内側に縫い込まれていて綺麗な処理が好み。良い洋服は裏の処理が綺麗だと勝手に思っている。この仕末の方法はドレスシャツによく見られる方法で、カジュアルシャツではあまりやらないらしい。

要するにこのシャツは、カジュアルに着るシャツを、細かいミシン目で縫って、ケンボロの始末もドレスシャツの手法で仕上ている。また「タイプライタークロス」という生地は厄介で、一度ミシンを入れてから縫い直そうとすると針穴が残ってしまう。「めんどくさいし、効率が悪い」。工場さんからそう思われていることは知っている…。笑

着込むほど、洗うほどに生地が柔らかくなって、縫い目に品の良いシワが出来て、雰囲気が出来てくるシャツなのだ。(この良さを工場の方にも伝わると良いのだが。)

私が作るシャツは「一見すると普通だけど、着込んでゆくと綺麗なシワが現れ、力の抜けた感じに出来上がってゆく」ようにデザインをしている。着込むほどに仕上がってゆく。
そしてセルジュゲンズブールのように洗い晒しのまま、ちょとルーズに着流すように楽しんで欲しいのだ。

私にとってのちょうどいいシャツ。少しずつ近づけていると思う。

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TEXT:SUU
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