カンキツルンバ
2022/11/03

カンキツルンバ
第1話_ ハジメマシテ。

連載 カンキツルンバ
TEXT & PHOTO / MITSU SASAHARA

スタイリストの笹原ミツと申します。
今日からJBmagで、コラムを書く事になりました。どうぞよろしくお願いします。
このコラム【カンキツルンバ】では、長年やってるファッションのスタイリストのお仕事ではなく、もう一つのお仕事の事を書いていきたいと思ってます。

もう一つの職業というのは、【柑橘農家】です。
なんで農家に?と言うのはまた、後ほど。

ぷりぷりのみかん達

まず、柑橘畑のある場所は、広島県。
「国内レモン生産日本一!」と看板が掲げてあるほど有名なレモンの産地、生口島という島です。
生の口って書いて生口島(イクチジマ)。なんとも艶っぽい名前の島ですが、離島ではなく結構大きな島なんです。
アートに力を入れているので様々なモニュメントがあったり、サイクリストの聖地なので、週末には街は本気の自転車で賑わいます。日本画家の平山郁夫さんの出生地でもあるので美術館もあったりね。

そんな生口島は、尾道からしまなみ街道を渡り、3つ目の島。
毎月、東京から車で通ってる【通い農家】です。
通い農家というカテゴリーなどないかもしれませんが、東京⇄生口島往復1500キロを毎月走り、畑仕事をし、また東京に戻る2拠点生活。
農家さんには叱られそうですが、【通い農家】を実践してるわけです。

なかなかの距離なのでハードさはあるけど、車の長距離運転もだいぶ慣れてきたので、高速使うとサクッと9時間くらいかな。長距離トラックの間に挟まれながら、真夜中、運転、爆進。
車の中では、1人カラオケで、到着する頃に喉やられる事もありますが、最近はだいぶ喉も鍛えられてます。

左:因島大橋。吊り橋のシルエットが色っぽい。
右:生口橋。これを渡ると生口島。しまなみ街道の中で1番好きな橋。

そんなこんなで、ゆるく休憩もとりながら、到着するわけです。島に着くのはだいたい朝方。
そこからは、即畑へ直行。
疲れよりドライビングハイみたいになってるから、とにかく畑のパトロールをするために、農作業着に着替えて畑へGO。

この時期、右を見ても左を見ても柑橘の実がたわわに実っていて、なんともフォトジェニックな景色なんです。緑の葉の中にオレンジ色が光り、抜けには瀬戸内の凪が見える贅沢な空間が広がります。

管理してる柑橘畑は全部で5箇所。
そこは、耕作放棄地といって、1年以上畑の管理から離れたもので、ジャングルになってる場所だったりします。そういう場所を借りて、草刈りから始まり、剪定(センテイ←いらん枝とか切る作業)、そして、実なる頃には収穫と、永遠と続く、終わりなき戦いの畑仕事ですが、これが最高に気持ちよく。最高級なジムの感覚。だらっだらに流す汗と、ぐちゃぐちゃになる髪の毛とか。スタイリストの仕事ではありえない風貌です(笑)

耕作放棄地でお借りした畑は、【自然栽培】という育て方をしてます。
【有機栽培】とは少し違いがあって、無農薬・無肥料・無除草剤の3本立て。なんなら、水も雨水のみ。これが、かなり逞しく、頭が下がる育ち方で、味が濃いのと、腐らないのが特徴なのです。

左:雑草は、全部刈らずにお残しします。宝の雑草。
右:急斜面のレモン畑。ランニングマシーンより、お尻が鍛えられる。

10年前まで、自然栽培って言葉も知らなかった割に、頭の中に疑問は無く、すんなりとはいった農業の世界。流行り物に手を出した感は否めませんが、本当はそうではないストーリーがありまして。

きっかけは、四半世紀付き合いのあるフォトグラファーのトニー谷内氏が突然始めた柑橘農園から送りつけられた(住所だけ聞かれ、予告なしで送られてきた)みかんやレモン達。
まぁ、これが、撮影では到底セレクトしないであろう不美人さで。表面の肌はススだらけだったり、ボコボコ肌だったり。
でも、皮を剥いたとたんに広がる強い香りに誘われ、一口食べると、砂糖の様な甘さではなくスッキリとした力のある味に、ガツッと衝撃を受けました。

そこから、思い立って、8年前からドネーションさせてもらってる地元の福祉協議会「こども食堂」に是非とも、これを!と思い。買い始め、寄付を続けていました。

急に送りつけられて、購入に至るという、オレオレ詐欺的な始まりではありますが(笑)
本物を手にした瞬間だったのです。

その時からトニーファームの自然栽培柑橘たちとの出逢いがスタートしました。
自らの手で柑橘を育てなければという思いもあり、生口島にあるトニーファームに通い、年の1/3通い農家という生活が始まった訳です。

今では、トニーファームの運営もしながら、地元の柑橘師匠から受け継いだ小さな小さな自分だけのレモン畑、『ハニーファーム』も始めました。もちろん自然栽培です。

長い自己紹介ではありますが、柑橘の事、こうして書きながら、楽しみながら、自身の勉強と確認作業をしながら、ホンモノを紹介していきたいと思います。

今月からまさに、柑橘屋は、超超超繁忙期。11月上旬からは、青いレモンの時期です。
最高な景色と癒しの香りを満喫しながら、収穫していきます。

青いレモン達。今年は実りが良いんです。

皆さん、今日から始まる【カンキツルンバ】ごゆるりとお付き合いくださいね。

次回は青いレモンと音楽の話。

Tony Farm(トニーファーム)

  • https://tonyfarm209.stores.jp
  • 広島県尾道市瀬戸田町。瀬戸内海に浮かぶ生口島にあるこの町は、日本随一のレモンの産地として知られています。トニーファームはその瀬戸田にある小さな柑橘農園です。高齢化のために放棄されていた柑橘畑を借りて再生し、農薬、除草剤、肥料を使わない自然農法でレモンやはっさくを育てています。
MITSU SASAHARA
笹原 光 / Stylist , Farmer
レディース、メンズファッション誌から広告まで幅広くStylistとして活躍。併せて「健康な心と体は食と自然から」との考えから、瀬戸内海に浮かぶ生口島で、カメラマン谷内氏が営む「Tony Farm」の運営サポートをする傍ら、自らのレモン畑「Honey Farm」を立ち上げる。農薬、除草剤、肥料を使わない自然農法でレモンやはっさくを育てている。
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