2023/04/05

ベテラン美容師の愛用するハサミ
『AMRITA』オーナースタイリスト 昆野 英彰

連載 いいもの伝聞録
TEXT & PHOTO / MADOKA

身近な人々に愛用品を教えてもらう「いいもの伝聞録」。第3回は、東京・表参道にある美容室『AMRITA』オーナースタイリストの昆野 英彰さんです。

美容室激戦区の表参道で20年近くも人気を保っているサロン『AMRITA』のオーナーであり、現役のスタイリストでもある昆野さん。
我々夫婦もお世話になっており、特に夫はもう20年以上のお付き合いです。なんといっても安心感。我々のような素人ながらにも感じるカット技術の高さ。そして丁寧でありながらフランクな人柄がサロン全体に漂っており、リラックスして施術を受けることができるのが人気の理由だと実感しております。

昆野 英彰 / Hideaki Konno
宮城県出身。麻布、表参道の美容室を経て2005年、自身がオーナースタイリストを務める美容室「AMRITA」を表参道にオープン。以来、安定した人気を持つ美容室に育て、2022年東京都三鷹市に2号店「AMRITA 三鷹」をオープンさせる。
高い技術力とお客様に寄り添ったスタイリングに定評がある。

今回は、そんなベテラン美容師が使う仕事道具、「ハサミ」のお話を伺いました。

伸びてくる髪を切整えてもらうのに、多くの方が普段からお世話になっている美容師さんという存在。そしてその美容師さんが使う、私たちの髪の毛をカットしているハサミ。身近でありながら、実はじっくりと見たことが無いという人も多いのではないでしょうか。

27年間使い続けているハサミ

ハサミ

普通のハサミとヘアカット用のハサミ、大きな違いはやはり「切れ味」。普通のハサミだと髪がギザギザにカットされてしまい、キューティクルに悪影響を与えてしまう。
そしてその「切れ味」を保つためにも、常にメンテナンスは欠かせない。定期的に研屋さんにお願いしているのだそう。

それぞれの役割をもつハサミですが、髪を切り続けて40余年の昆野さんが、1番愛用しているハサミはこちら。

なんと使い続けて27年間!はじめは今より3センチほど長かった刃も、研ぎ続けていくうちに短くなっていっているのだとか。
メーカーや素材にこだわりがある美容師も多いが「スペックがどうこうと言うより、これは思い入れの強いハサミなんです」と昆野さん。
どこのメーカーのものか尋ねると「えっと…どこのだっけ?」と覚えていない様子。笑(刻印されたロゴを見ると「アコメシザー」というメーカーのようです)

実はこのハサミは、今は故人となってしまったお師匠さんから頂いたもの。思い入れが詰まっているのです。

昆野さんが駆け出しの美容師の頃は、同じ東京でも「原宿・表参道」界隈とそれ以外のサロンでは、カットの技術に圧倒的な差があったのだそう。現在は技術の継承が広がっていますが、当時雑誌に掲載されているヘアスタイルのトレンドも、全てが「原宿・表参道」発信。白金の美容室に勤めていた昆野さんは、その差を痛感する日々。次第に原宿で勝負したいという想いが強くなっていきました。
そして10年お世話になったお師匠さんの元を離れ表参道で勝負しようと決めた際にいただいたのが、このハサミ。
「本当に、不義理をしてしまったのですが…」と話す昆野さんの様子から、お師匠さんとの良い関係性がうかがえます。

欠かせないメンテナンス

思い入れの詰まったハサミ。27年もの間、苦楽を共にし思い入れも増していきます。
長く使い続ける為にはメンテナンスは欠かせません。

ハサミそのもののスペックにこだわりは薄いものの、メンテナンスのこだわりは強い昆野さん。
多くの美容師にはそれぞれお気に入りの研師がいるのだそう。昆野さんのお願いしている研師さんはとてもマニアックな方で、単にきれいに研ぐだけでなく「どう切りたいのか」で仕上がりを調整してくれるのだとか。微妙な調整で全く違ってくる切れ味。職人!て感じでカッコいいです。
手が滑ってハサミを落としてしまうと微調整が狂ってしまい切れなくなる。なのでどこかでハサミの落ちる音がすると、美容師たちは「ハッ」と息を呑んでしまうのだそう。それだけ一大事なのですね。

セニング(すきバサミ)はあまり使わず、一本一本狙うイメージで切り進めるのが昆野さん流。

刃が短くなってくると買い換える人も多いそうですが、今後もメンテナンスを続け、現役中は使い続けるというこのハサミ。
試しに持たせていただきましたが、そんな話を聞くと緊張します。そして動かし方も普通のハサミと違い独特で、手がつりそうになります。美容師さんたちの何気ないハサミ捌き、日々の鍛錬の成果なのだと改めて実感いたしました。尊敬です。

上の刃を固定し、親指だけを動かして切っていく。素人には難しい。

メンテナンスのお話も内容が深く、その他技術的な話や、髪のお手入れの話、書き切れないほどの濃いお話をうかがいました。
「長く美容師を続けていると、お客さんが結婚し、子供を連れてきて、その子供が大人になって彼氏を連れてきたり…ということがある。すごく良い仕事」と嬉しそうに語る昆野さん。これからもこのハサミと一緒に長く現役を続けてください!(お酒はほどほどに。笑)
ありがとうございました。

AMRITA omotesando

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