2024/12/13

手仕事にこだわる革靴職人
『FYSKY』井出 洋輔

TEXT / SUU , MADOKA
PHOTO / MADOKA

革靴をオーダーで製作しているアトリエ、FYSKY

『FYSKY / フィスキー』は東京 吉祥寺にある革靴をオーダーで製作しているアトリエ。財布やベルトなど革小物も手掛けています。
以前から納得のいくベルトが見つからず、なんとなく妥協して使っていた私。こちらでベルトもオーダーで作っていると聞き、「オーダーで納得のいくベルト、作ってもらえるかなぁ。」と訪れたのが始まりです。そこでお会いしたオーナーの井出さんは実直で熱い思いを持った靴職人。しかも背が高くて男前。笑
職人としてのはじまりと、これからについてお話を伺いました。

FYSKYに依頼したベルトはこちら
» Soliloquy / ATELIER MADE by FYSKY レザーベルト

井出さんが作る革靴は「ハンドソーンウェルテッド製法」によって1足1足が「手縫い」で作られています。この製法は、「ミシンが発明される以前から受け継がれてきた手作業の伝統技術」。
映画などで、両手に縫い糸を持ち「シュッ!シュッ!」と両手を大きく広げて縫ってゆく場面を観たことがある、アレです。

左:FYSKYの靴 / 右:製作の様子
FYSKY Websiteより
井出 洋輔 / Yosuke Ide
東京 吉祥寺生まれ、吉祥寺育ち。
高校時代はバスケット部で汗を流す。大学時代からは飲食店の厨房でのアルバイトに明け暮れながら、趣味ではじめた靴作りに没頭。浅草のアトリエで修行後、2009年に独立。地元の吉祥寺にアトリエを構える。
2022年にオーダーメイドの革靴ブランド『FYSKY』を立ち上げる。丁寧な接客と美しい仕上がりに定評がある。

革靴作りのはじまり

井出さんの大学時代は学生生活の4年間、毎日飲食店の厨房でのバイトに費やします。その結果、大学を卒業する頃には料理人としての基本的な修行は終わり、厨房でそれなりの立場になっていたそう。笑
「一つの事を毎日追求し続けることが好きで、苦になった事がない」と井出さんは言います。根っからの職人気質のようです。

料理を仕事として暮らしている中、「何か趣味の一つくらい無いとこの先つまらないなあ。」と思い、靴作りの教室に通ったことが、靴作りのきっかけだとか。
ハンドソーンウェルテッド製法は「ミシンが発明される以前からの製法」と言うように、それ用のミシンなどの機械が揃っていなくても革靴を作ることが可能。少しの道具と、技術さえあれば。
「今までは、興味を持ったことは何をやってもそれなりに出来ていた」井出さんは、この教室で初めて「何も出来ない」経験をします。ホワイトボードに書かれている説明の意味はわかっていても思うように手が動かない…。
それ以来、自分の思うように出来ない革靴作りにどんどん魅せられていきます。負けず嫌いな性格のようです。笑

夢中で靴作りを続けていたある日、浅草にある革靴のアトリエから「靴作り、ウチでやったら?」と思いがけないお誘い。ふたつ返事で修行を開始、仕事としての靴作りの始まりです。
※浅草~浅草橋は、昔から革製品を扱うアトリエや企業が多いエリアです。

革靴ブランド FYSKY

「趣味の革靴作り」から「仕事としての革靴作り」へと、流れるように人生が動き出した井出さん。
その後独立し、一人で黙々と靴作りに向き合い続けます。革靴を全て一人で作っている珍しい職人の話は徐々にひろがり、様々な靴作りの依頼が入るように。
いわゆる「下請け仕事」ですが、自身では思い浮かばないデザインや仕様の要求に応えていくうちに、技術がさらに磨かれていきます。
「今でも他所からの依頼は楽しいんです」と井出さん。

そして12年間、革靴職人としての人生を進んでいた井出さんに次の転機が訪れます。
日本のものづくりの現状がどんどん厳しくなる中、コロナ禍もあり、自身で発信するブランドを作ることに。
広告代理店に勤めた経験のある、学生時代の友人の協力を得て『FYSKY』のブランディングを練り、試行錯誤の上、誕生。その友人とは、現在もブランド運営のパートナーである、石黒さん。
また流れるように、次のステップへと歩み出します。

“完成した世界に一足だけの革靴が一人ひとりのお客様に「Fit You」し、空(SKY)の上を軽やかに歩く様な履き心地とその高揚感で、ともに長く時を刻んでいきますように”
これが『FYSKY』のブランド名の由来。素敵な響きです。

吉祥寺のアトリエ

『FYSKY』の革靴は全て「手作業」によるハンドソーンウェルテッド製法という作り方で作られています。普段私が履いている革靴のグットイヤー製法と大きく何が違うのか。
「グットイヤー製法などミシンで縫われる革靴は靴底にコルクが入っている。このコルクが履いてゆくと沈むことによって、足に馴染んでゆく作り。」一方「ハンドソーンウェルテッド製法はコルクが入っておらず、全て革によって構造物が作られており、歩いた時の返りが良く、足馴染みも良い。」とのこと。
さらに、履く人の足の特徴に応じたラスト(木型のこと)を60サイズから選べるようサンプルを用意!そうやって自分の足に合わせ、この製法で作られる革靴は、履き初めから足が痛くなりにくい。
「革靴は、コルクが沈んで足に馴染むまでの痛さは修行」と思っていた私。どう馴染んでゆくのか、非常に興味深いです。

ただ、当然ながら安い価格ではありません。「技術がすごい、時間がかかっているから高い、とは言いたくない。人はそこにお金は払わないと思う。」そして「圧倒的な品質で勝負したい。」と井出さん。
また、オーダーメイドはお客さんとのコミュニケーションが必要なお仕事だなと感じますが、そこは職人になる前に飲食店で培ったコミュニケーション能力が役立っているのだとか。
芸術品を作っているわけではなく、あくまで道具。お客さんとの信頼関係で作り上げ、たくさん履いて、活きる靴。ますます興味が湧きます。

ものづくりという仕事

一人で黙々と仕事をこなしてきた井出さんですが、一人でこなすには限界も訪れます。そんなタイミングで職人を紹介され、手伝いを依頼するように。
「一人手伝ってもらうだけで、幅が広がってゆくことの多さに、改めて驚いた」のだそう。
そうやって一人、また一人とお手伝いを依頼するうちに、自身のブランドも始まり、どんどん広がっていき…アトリエをもう一つ増やすことにまで進展します。

「ものづくりで食べていくのは、本当に大変。どんなに好きで技術があっても、環境がないと続けていけない。」
井出さん自身の経験からも痛感していること。そして、日本全体の問題でもあります。
「純粋に、良いものを作りお客さんに届けたい。」そして「そのためには、仕事として生活が出来るようにならないといけないんです。」
趣味で始めた靴作りから、自身のブランドをはじめ、さらには「その環境を守る」立場へと、流れるようにステップアップしてゆく井出さん。頭が下がります。

「本当は、一人で黙々と手仕事を極めていきたい。共同作業は得意ではないんです。」と、はにかみますが … いいえ!チームプレイのバスケ部出身、またチームプレイで成り立つ飲食店での経験、物腰の柔らかい話し方…。新潟の寒空の下、美術部で黙々と絵を描きながら他人との関わりを拒むような高校時代を過ごした私に比べたら、とっても向いているように思います。笑
ひたむきな「職人」である井出さんと、熱い思いを持った「経営者」としての井出さん。今後はどのようにステップアップしてゆくのでしょうか。

「もの」が好きで始めたこの『Jb mag 』そしてブランド『Soliloquy』。機械技術が発達した現在でも、どんな「もの」にも人が介在している限り、楽しむ側にいる私たちも、ものづくりの環境について考える責任があるように思うのです。
最後に、「職人のこれからは、伝え手の方がどう伝えてくださるかということが重要だと考えています」との言葉をいただきました。ありがとうございます。

ブランド情報

蛇足ですが、昨今風当たりの強まりつつある「本革」という素材について。
人がお肉を食べる限り発生する「革」という副産物。『FYSKY』では、これらを少しでも無駄にすることがないよう、工夫して使用しています。
その辺りのことはいつかコラムにしたいと思います。

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TEXT:SUU
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